第31章 幸せ
最初から分かってたんだ…俺じゃ勝目が無いって事を。だけどどうしても諦めたくなかった。ペトラを誰にも渡したくなかった。例え、尊敬する兵長であっても…。
…それでもやっぱり…、あいつが兵長の事をどうしても好きだって言うのなら、俺は潔く身を引くさ。それで兵長にフラれちまったら、その時はしょうがねぇから俺がもらってやるから安心しろよな。
それがよォ…こんなのってねぇじゃねぇか…。あいつには…幸せになれる未来が確かにあったはずなのに。バカ野郎ペトラ、お前…何で……クソッ、クソッ…。
木の幹に押し付けられた小柄な身体から、まるで真っ赤な花が咲いたみたいに血が流れ出している。
「…オイ、死ね」
俺は女型巨人のうなじめがけて刃を振り下ろした。角度、勢い、どれを取っても完璧な攻撃だったと思う。それなのに…
「…なぜだ、刃が通らねぇ…」
巨人に突き立てた刃が、キイインと砕けて視界を舞うのがやけにゆっくり見えた。
気がついた時には俺は地面に叩きつけられていて、だけど不思議と痛みは無かった。
数メートル先に、木にもたれかかるようにしているペトラの姿が見える。思わず手を伸ばそうとしたけど、腕はピクリとも動いてくれなかった。
オイ、ペトラ…お前最期くらい…俺の方見ろよな。俺はお前のことが誰よりも好きだったんだぞ。ありがたく思えよ、このバーカ…。