第31章 幸せ
「悪いな、助かる」
補充を手伝いながらチラリと兵長の顔を見る。それに気づいたのか、兵長も手を動かしながら私の顔を見てきた。
「班の奴らを呼んでくる。お前はハンジ達と一緒に撤退行動に移れ」
「兵長、どうかお気をつけて」
そう言った時、兵長の厳しい表情が途端に緩んで、困ったような顔になった。
「…おい、何て顔してやがる」
ポンと頭に手を乗せられ、わしゃわしゃっと撫でられた。驚いて、慌てて自分の顔を触ってみると、眉も口も滑稽なほど下がっていた。これじゃあまるでベソをかいている子どものような顔だ。
みっともないから…すぐにやめなければ…と分かってはいるのに、どうしても表情が戻らなかった。だってすごく不安なのだ…兵長に何かあったらどうしようって…。
兵長は誰よりも強い。それは分かっている。…でもついさっき、戦闘慣れしていたはずのヘルゲとミアはあっけなく死んだ。壁外では何が起こるか予測がつかない。どんなに強い兵士だって、思いもよらない形で死ぬ…。
「心配するな必ず生きて戻る。だからお前も、巨人に食われるんじゃねぇぞ」
「はい…っ」
兵長はするりと私の頬をひと撫でしてから、飛び立っていったのだった。