第31章 幸せ
兵長の「やりたきゃ、やれ」という言葉を受けて巨人化をしようとするエレンに、ペトラが震える声で言うのが聞こえた。
「信じて…」
懇願するようなその表情に、エレンが躊躇しているのが分かる。そこに追い打ちをかけるようにして兵長が怒鳴り声を上げた。
「遅い!!さっさと決めろ!!」
それがエレンの心を完全に決めさせたのだろう。
「進みます!!」
エレンの絶叫にも似た返事が響いて、一瞬リヴァイ兵長を含む班全員が驚いて目を丸くした。それからお互いに頷き合うと、前を向いた。時間にしたらすごく短かったと思うが、その瞬間、みんなの気持ちが同じ方向を向いたのが分かった。
その直後、後方から大きな叫び声が上がり、チ゛ュンと柔らかいものが擦り切られるような音が響いた。一人で戦っていたあの兵士が、死んだ。
(あ…ぁ…)
私の頬を、水滴が一筋伝う。それはもう、汗なのか涙なのか分からなかった。手綱を握る手にはじっとりと汗がにじんでいた。
私は、爪が食い込む程強く手を握り締めて、何とか己を奮い立たせた。仲間があっけなく死んでいく。悲しい、辛い、悔しい…。
(…でも…私たちは止まる訳にはいかないんだ。この先がどうなるのかは分からないけれど、今は進むしかない。兵長が、前を見続けている限り…!!)