第31章 幸せ
まるで人間の女性のような姿をしたその巨人は、猛烈な速度でリヴァイ班の後を追ってくる。ヘルゲとミアに続いて現れた後続の兵士達が次々と殺されていく。
「う゛あ゛ああぁぁ!!」
体当たりをされるようにして巨人の大きな身体で押しつぶされた兵士の、耳を塞ぎたくなるような絶叫が辺りに響く。
(くっ…!!)
暗い森に響き渡るその声を聞きながら、私はギリギリと歯を食いしばった。
人間の断末魔の叫び声。調査兵になってから、もう何度聞いたことだろう。いや、調査兵団に入る前から、自分はこの声を知っていた。最後に聞いた父の声は、こんな絶叫だったから。
「戦いから目を背けろと!?仲間を見殺しにして逃げろってことですか!?」
エレンが怒鳴るように叫び、その言葉が私の胸に突き刺さる。後方では、まだたった一人で戦っている。
(私だって…、私だって戦いたい。ヘルゲ…ミア……もう、誰にも死んで欲しくなんてない…!!でも…)
先ほどの兵士の絶叫が、まだ耳の奥でこだましているような気がする。ドクンドクンと胸が大きく鼓動して、まるで心臓を鷲掴みにされたように苦しい。
(私たちが今すべきことは、エレンを守ること…!)
辛い気持ちを飲み込んで、私は決意を固めた。手綱を握り直した時、エレンとの誓いを立てた噛み傷がズキンと傷んで、あの時の気持ちを思い起こさせた。
(全てを守ることはできない。だから、一番守らなくちゃいけないものに私達は全力をかける)