第31章 幸せ
「指示をください!!」
エレンとオルオが叫んだ。だが兵長が出したのは、戦闘用意ではなく「耳を塞げ」という命令だった。
私達は慌てて耳を押さえたけれど、キイイィンと耳をつんざくような高音が鳴り響く中、間に合わなかったらしいオルオは白目をむいていた。
「お前らの仕事は何だ?その時々の感情に身を任せるだけか?」
その兵長の言葉に、私はハッとした。数日前の晩のことを思い出したのだ…。それは、班編成も確定し明日には本部に合流するという前夜のことだった。
エレンを地下の寝室に連れて行った後、リヴァイ兵長は私を含む班の面々を食堂へと呼び出した。招集をかけるにしては遅い時間だったし、エレンを休ませてからというところに、少し緊張を感じた。
「お前たちには壁外調査中、エレンの護衛をしてもらう。俺たちの使命は、アイツにキズ一つつけることなく守りきることだ。…命の限り」
何の前置きもなくあっさりと言い放たれたリヴァイ兵長の言葉に、一瞬皆はあっけに取られたが、すぐにエルドさんが質問をした。
「兵長、しかし、我々に指示されていたのは、エレンの監視と暴走した際の討伐命令だったはずでは…?」
「もちろんそうだ。だが、それは壁内での話だ。壁外ではアイツも俺たち同様に巨人の捕食対象として認識される。おめおめと巨人に食わせて、人類の希望を失う訳にはいかない。俺たちと違って、アイツには代わりはいないんだからな」
それを聞いて、食堂内はシンと静かになった。もう誰もそれ以上意見することはなかった。それは、言葉少なだが信頼できる上司の真意を汲み取り、各々が納得したからだった。