第31章 幸せ
巨人が突如身体を大きく傾けて、うなじに刺していたワイヤーにたるみが出来た。一瞬ヘルゲの身体は宙を浮き、そこに巨人の身体が覆いかぶさった。
ドオッと大きな背中と木の間に挟まれて、ヘルゲの身体は押しつぶされてしまった。飛び散った血で真っ赤に染まった巨木と、落ちてゆくヘルゲの身体。
巨人は、今度はミアの身体を掴んでうなじからアンカーを引き抜くと、そのまま彼女の事も木に叩きつけたのだった。バシャと、彼女の全身から血が噴き出すのが見えた。
「……!!!」
あまりにも一瞬の出来事に、私は声を発することもできなかった。ヘルゲ…?ミア…?
その光景を見て、班の中で口を開く者はいなかった。皆、私と同じように絶句していた。だがすぐにオルオが叫んだ。
「兵長!指示を!!やりましょう!あいつは危険です!!」
それに続くようにして、他の班員達も口々に戦闘に移ることを提案した。私も立体機動装置のトリガーに手を伸ばし、戦闘体勢に入ろうとした。
「……?兵長?!」
だが、兵長は無言のまま馬を走らせ続けているだけだった。