第31章 幸せ
中列のみが森へと侵入したことで陣形は消滅し、索敵能力は失われた。森の中というのは、立体機動で戦うには非常に有利であるが、一方で木々が障害となって巨人の接近に気づくのが遅れてしまう。エルヴィン団長がなぜ、今の状況でこのような進路を選択したのかは分からない。
エレンが口々にリヴァイ兵長に問いかけているのを聞きながら、私は黙ったまま兵長の背中を追いかけ続けた。私だって不安がない訳じゃない。
(でも…きっと何か考えがあってのこと)
私はリヴァイ兵長を信頼している。兵長は誰よりも任務に忠実で、仲間思いの人だ。信頼に足る人物というのは、まさに兵長のような人の事を言うのだと思っている。
その兵長が絶対の信頼を置いているエルヴィン団長からの指示だ。兵長がそれを信じて突き進むのなら、自分も続くだけだ。
馬を走らせていくにつれて、どんどん森は深くなっていく。巨大な木立の陰から差し込んでくる光は細く、辺りは薄暗い。
私はとにかく夢中で兵長の後を走っていたが、突然後方から大きな音が聞こえ咄嗟に剣に手をかけた。
「お前ら剣を抜け。それが姿を現すとしたら、一瞬だ」
兵長がそう言い終わるやいなや、あっと思った時には後方の木の陰から巨人が飛び出してきたのだった。