第30章 ささやかな代償
「おい…っ!!」
リヴァイがラウラのもとに駆け寄り、首から引き抜いたクラバットをキツく巻きつけて止血し始めた。
「バカヤロウ…こんなに強く噛みやがって…」
血を止めるために、ぎゅっと強くラウラの手を握りしめるリヴァイ。だがラウラの視線はエレンの方を向いていた。
「エレン…あなたは命がけで戦ってくれていたのに、私達はあなたを信頼できていなかった…本当にごめんなさい…」
患部に押し当てられた白いクラバットには、真っ赤な血が滲んできていた。そのあまりにも鮮やかなコントラストが、エレンのガラス玉のような瞳に鮮明に焼きついた。
「…ラウラさんっ」
ふらふらと、エレンはラウラに歩み寄ると膝をついた。ひざまづいたエレンの目の前に、ラウラは血のにじむ右手を差し出す。
「もう二度と、あなたを疑わない。この傷に誓う」
それにならって、リヴァイ班の面々も、エレンに向かって右手を差し出す。
「ラウラさん…、先輩方…」
エレンの大きな瞳にはみるみる内に涙が浮かんできて、ラウラの手を包み込むようにして握ると、膝をついて泣き始めた。
(…まだ、子どもだ。そんな彼に私たちは重く残酷な十字架を背負わせようとしている…。せめて、せめてその重荷を少しでも支えよう…)
ラウラもひざまづくと、しゃくりを上げるエレンの身体をしっかりと抱きしめてやったのだった。