第30章 ささやかな代償
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その後ハンジの考察により、エレンの突然の巨人化は敵意を持って行われたことではないと証明された。彼はただ、地面に落としたティースプーンを拾おうとしただけだったのだ。それが、巨人化に不慣れな彼にとって、巨人化のきっかけになってしまった。
エレンの言い分も聞かずに次々と詰問してしまったリヴァイ班の面々は、彼を疑ったことへのささやかな代償と今後の信頼の証として自らの右手に歯を立てたのだった。
「ちょっと、何やってんですか!?」
リヴァイ班の突然の行動に驚いたエレンは、ある一点を見てサッと顔を青くした。
「ラウラさんっ!!」
見開かれたその視線の先には、ボタボタと大量の血液を流すラウラの白い手があった。
リヴァイ班の面々も相当強く噛んでいる。その証拠に、その手にはまだくっきりと歯型が残っている。だがラウラの歯は、歯型を残すどころか皮膚を突き破り、肉を断ち切っていた。そう、まるでエレンがやるように。