第30章 ささやかな代償
私の絵の特徴として、全体的に緻密に描写するのだが、人の表情というものは特に、自分でも気持ち悪いと感じるほど詳細に描く。
絵を描いている時はほとんど無我の境地なので、あまり意識したことはないのだが…。
赤い肉の上に乗っているエレンの表情を見た瞬間、私は自分で描いておきながら思わず絶句してしまった。絵の中のエレンは、その端正な顔を子どものように歪めて、今にも泣きだしてしまいそうな顔をしていたからだ。
大きな瞳を見開いて周囲の兵士たちを見つめているエレン。彼をぐるりと取り囲んで立っている兵士達は、リヴァイ班の面々だ。
彼らの両手にはブレードが握り締められ、その顔面に浮かぶ恐怖と不安に満ちた険しい表情は、まさに巨人に向けられるもののそれだった。
あの時自分は、エレンがこんな表情をしているのを見ていながら、絵に夢中になって何も考えていなかった…。
エレンの気持ちを慮ってやらなかったばかりか、多分…いやきっと確実に、キモチワルイ顔をして食い入るように見つめてしまったに違いない。