第30章 ささやかな代償
(エレンは…大丈夫だろうか…)
先ほどの、まるで人形のように表情を固くしたエレンの姿を思い出して、私の胸はズキリと痛んだ。
(あんな表情、審議所で拘束されていた時ですらしなかったのに…)
私はパラパラとスケッチブックをめくり、先程まで描いていた絵を改めて見てみた。
エレンの右腕から伸びる腕のような物体は、そこだけがはっきりと形を成していて、両側に伸びているのはおそらく肋骨と思われた。
だがそれは、グニャグニャと心もとなく広がっていき、最後は地面に突き刺さっていた。
いびつな構造ながらも、おそらく背骨と思われるモノの先端に首は無く、まるではね飛ばされてしまったかのようにそこには何もなかった。
その何とも不完全で不気味な物体の上に、エレンは乗っていた。彼の右腕は、巨人の身体に引っ張られるようにしてその赤々とした肉の中に埋め込まれていて、腕と一体化しているというよりまさに右腕からそれらが生えてきたように見えるのだった。