第30章 ささやかな代償
目のくらむような黄金色の閃光の後、エレンの右腕から巨人の身体が発生したことや、刃を抜いたリヴァイ班に取り囲まれている光景、ハンジ分隊長が登場してあっという間に巨人の身体が蒸発したことなど、あの時起こった出来事は克明に思い出すことができる。これは私の特殊な記憶力によるものである。
だけど鮮明なのは実は映像だけで、あの時エレンに対してリヴァイ班の面々が詰問をしている声は聞こえていたが、音だけが聞こえているような感覚で、その会話の内容までは十分に理解していなかった。
エレンの身体から筋肉がむき出しになったようなグロテスクな腕が生えているのを見た瞬間、私のいつもの悪癖が噴出して周りが一切見えなくなってしまった。
私はただひたすらにエレンとスケッチブックを交互に見て、鉛筆を走らせていた。自分の行動で覚えているのはそれだけだ。
(エレンは…大丈夫だろうか…)
先ほどの、まるで人形のように表情を固くしたエレンの姿を思い出して、私の胸はズキリと痛んだ。
(あんな表情、審議所で拘束されていた時ですらしなかったのに…)