第30章 ささやかな代償
やってしまった、と思わず顔を青くした私をチラリと一瞥してから、リヴァイ兵長は踵を返して歩き始めた。
「帰るぞ。今日は撤収だ」
スタスタと歩いてゆくリヴァイ兵長の後ろを追いかけていくと、少し行った先にはすでに馬に乗って待機しているリヴァイ班の面々と、能面のように顔を固くしたエレンの姿があった。
古城に戻ると私達には食堂での待機が命じられ、青い顔をしてピクリとも表情を動かさないエレンは、兵長に連れられて彼の寝室がある地下へと下りていったのだった。
食堂には私とリヴァイ班の他に本日の実験に参加した兵士が何名がいたが、誰ひとりとして口を開く者はいない。
シンと、まるで誰もいないかのように静まり返った空気の中、私も黙りこくったまま俯いていた。だけど表面上の静けさとは異なり、頭の中は先ほどの出来事を思い出して高速回転していた。