第30章 ささやかな代償
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混乱状態の中、エレンは自分の右手から発生したらしい巨人の体の一部の上で狼狽していた。
「落ち着け」
辺りに立ち込める煙の向こうからリヴァイの低い声が聞こえてきて、慌ててそちらに目を向けると、刃を抜いてこちらを睨みつけているリヴァイ班の面々と彼らに対峙するようにして立つリヴァイの後ろ姿が目に飛び込んできた。
「あ…」
そしてエレンは、ある人物とはっきりと目が合うのを感じた。
ペトラよりも僅かに後方に立ち、刃こそ抜いていないものの、こちらを食い入るように見つめているラウラと。
(あの目は…)
そのコバルトブルーの瞳は大きく見開かれ、まるで審議所の控え室で見せた時と同じように狂気を孕んでいた。
エレンはその視線で、心臓を刺し貫かれたような気がしたのだった。