第30章 ささやかな代償
私と同様にエレンを気の毒に思ったらしいエルドさん達が、次々と励ましの言葉をかけている。だがエレンは、包帯を巻いた両手を見つめながら、傍目にもはっきりと分かるほど落胆していた。
「うっ」
噛んだ手が痛むのか、エレンがティースプーンを取り落とした。
丁度テーブルの横に立っていた私の足元に転がってきたそれと、拾おうとして伸ばしたエレンの手が視界に入った瞬間、とてつもない爆風とともに目の前が黄金色に染まった。一瞬の出来事だった。
ドサッと身体を地面に叩きつけられた時、背中に感じる鈍い痛みで、自分が吹き飛ばされたのだということに気がついた。
慌てて立ち上がると、目の前には視界を塞ぐほどの濃い霧が立ち込めていて、頬に当たる風はまるで熱風だった。
視界を覆っていた白い煙が少しずつ薄れていき、その中心にあるものが姿を現してゆく。
「な…何で今頃…」
そこには、まるで皮を剥がれたみたいな赤々としたグロテスクな腕が不自然に鎮座していたのだった。
その異様な物体の上でエレンがもがいているのが見えて、その光景に私の中でスイッチが入ってしまった。そこから先の意識はない。