第30章 ささやかな代償
それも仕方のない事かもしれない。唐突に同期から引き離されて、たった一人で慣れない環境の中で頑張っているのだ。仲間が恋しくなって当然だ。
私は思わず手を伸ばして、エレンの頭をポンポンと撫でた。
「今度の休みにゆっくり話しなね」
「は、はい、ありがとうございます」
そんなやり取りをしていると、不意に後ろから声がした。
「ラウラ、戻ったのか」
「兵長!」
振り返ると、兵長がランプを持って立っていた。
「明日も本部に行くのか?」
「いえ、本日で生態実験の片付けも終わりましたので、明日からはこちらで待機いたします」
「そうか。ならもう休め。さっそくで悪いが、明日からは次の壁外調査に向けての合同訓練に参加してもらう」
それだけ言って廊下を歩き始めた兵長は、数歩進んだところで怪訝な表情をして振り返った。
「エレン、何をぼさっとしてやがる。ガキはもう寝る時間だ。さっさと来い」
「は、はいっ」
慌てて兵長の後を追うエレンに、私は小さく手を振った。
「おやすみ、エレン」
少しだけ振り返って笑顔を見せたエレンは、地下に通じる階段へと消えていったのだった。