第30章 ささやかな代償
その日は、夜もすっかり更けた頃に私は古城に帰ってきた。数日続いていた後始末が、ようやく終わったのだ。
玄関まで出迎えに来てくれたエレンが、まるで執事のように丁寧に私のマントを受け取ってくれる。
「ラウラさん、遅くまでお疲れ様です」
ランプの灯りに照らされた彼の顔は彫刻のようで、いつ見てもほれぼれするほどの男前である。
「ありがとう、エレン」
ニコリと笑いかけると、彼はその美術品の様な顔をふにゃりと緩めて笑い返してくる。
その顔がいつも弟の顔と重なって、どうしようもなく可愛いく思えてしまう。もちろん弟はエレンほどのイケメンではなかったけれど、なんとなく雰囲気が似ているのだ。
「あ、そうだエレン、今度の調整日にミカサとアルミンが遊びに来ても大丈夫?」
「え?!なんでラウラさん、あいつらの事を…」
知っているのか、という顔をしている。
そうか、エレンは私と二人が面識のあることを知らなかったのか。
「今日、本部で会ったんだ。話したのはほぼ初めてなんだけど。二人ともエレンの事をすごく心配してたよ」
「そうですか…あいつら…」
エレンはちょっと寂しそうな顔をして、目を伏せた。