第29章 第104期調査兵団
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ハンジの絶叫と、不安げな顔をしてザワついている兵士達の中で、唯一ラウラだけが静かに巨人の姿を見つめている事に、多分俺だけが気付いていた。
あの目だ。瞬きもせずに、一点を食い入るように見つめている、ある意味狂気的な眼差し。こいつがこの目をした時、それは絵の事しか考えられなくなっている時だ。
「ラウラさん?」とエレンが不安げな顔をして声をかけている。だがラウラは気付かない。
当然だ。この状態になったラウラは、よほどの事がない限り「こっち側」には帰ってこない。
それでもなおエレンは、ラウラの事が心配なようで、しょげた犬みてぇな顔をして追いかけている。
そう言えばコイツはやけにラウラに懐いているな。ラウラは誰に対しても面倒見が良いが、特にコイツのことは可愛がっている様だから、それでかもしれない。
だがこれ以上エレンをこの場所に長居させる訳にはいかない。周りの兵士に気付かれて、騒ぎになっても面倒だからだ。
「行くぞ…後は憲兵団の仕事だ」
巨人の絵に熱中しているラウラの事は、とりあえずハンジ達に任せておけばいい。気の済むまで描いたら戻ってくるだろう。