第29章 第104期調査兵団
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私たちリヴァイ班が現場に到着した時、少し先に出発していたハンジ分隊長はすでにそのただ中にいて、ソニーとビーンが蒸発していく様を見ながら絶叫しているところだった。
もうもうと蒸気を上げながら消えていく二体の姿を目の当たりにして、正直なところ私もハンジ分隊長と同じように叫びたくなった。
まだまだ彼らには、描かせてもらいたい姿がたくさんあったのに。
こんなにじっくりと巨人を観察できる機会なんて滅多にないのに。
きっと兵団の、人類の貴重な資料になるはずだったのに。
そんな思いが沸き上がってきて、私は犯人に対する怒りと失望で震えてきた。
大事な被験体が無くなってしまった!これがどれだけ人類にとっての損害なのか、犯人は分かっていないのだろうか!
しばらくの間私は拳をブルブルと震わせていた。しかし、はたと気付いた。
…いや…違う。描くべきは「今も」だ。
ソニーとビーンが殺されたこの光景こそを描いておかなければいけない。
それが今の私に出来ることであり、やるべき事だろう。
そう思ったら、何だか胸の奥から熱い衝動が沸き上がってくるような気がして、私はいつも持ち歩いている小さいスケッチブックを取り出すと、消えかかっている巨人に向かってズンズンと歩いて行った。
「ラウラさん?」
エレンの声が聞こえたような気がしたけれど、返事をするような余裕はもうなかった。
スケッチブックに最初の線を引いた瞬間、私の耳からは一切の音が遮断されたのだった。