第26章 兵長のおまじない
だけど、ドックン、ドックンと妙に胸の鼓動が大きく聞こえて、指先が震えるのだった。
兵長の触れた部分が燃えるように熱い。まるで身体中の熱が頭皮に集中しているみたいだ。
胸が苦しい。何だろうこの胸の高鳴りは。
この感情の正体を、私は知らない。
形作られていないソレは、形を求めてグニャグニャと私の胸の中をさ迷っているのだろう。その蠕動が、この胸の動悸の原因に違いない。
多分ほんの少し手を加えてやれば、ソレはハッキリとした形になるだろう。何となく直感でそう思う。
だけど、それをやったら…きっとそれはペトラへの裏切り行為だ。
「横恋慕」に近いやつだろう。…あ、「恋」って言っちゃった…。いやいや、今のは無し!ノーカンで!
私は誰にするでもない言い訳を全力でした後、数少ない特技の一つである「集中力」を発動させて、あえて心を無にした。
心のざわめきからプイと目を背け、また黙々と道具の手入れに戻っていったのだった。