第26章 兵長のおまじない
おまじないって何だろう?というか、兵長ってたまに言葉遣い可愛いんだよな。
「ひたい」のことを「おでこ」って言ったりするし。「頬」のことを「ほっぺた」って言うこともあるなぁ。
思わずニヤニヤと笑いそうになっている私の目の前に立った兵長は、私の顔を見下ろして少し怪訝な表情をされた後、おもむろに私の頭をポンポンと軽く撫ぜたのだった。
「えっ」
予想外の兵長の行動に私は驚きで硬直する。
「お前は明日も無事に帰ってくる。俺がついている、お前を死なせたりはしない」
それだけ言って兵長は、まるで何事も無かったかのようにスタスタと窓際の席へと戻って行って、また本を読み始めた。
「……」
今、一体何が起こった?兵長が私の頭を撫ぜたのか?
「兵長?」
「あ?」
顔を上げた兵長の顔は、何というか…どう表現したらいいのか分からない微妙な顔をしていた。こんな表情は初めて見た。
照れているような、怒っているような。引き締めているつもりで、緩んでいるような。そんな顔だった。
「もしかして、照れていらっしゃるのですか?」
思わず、頭に浮かんだことがそのまま口から出てしまう。
そんな私をジロリと睨んで、兵長は小さく舌打ちをした。
「……てめぇはたまに空気を読まない時があるな。馬鹿な事を言ってねぇで、さっさと片付けを終わらせちまえ」
「は、はいっ!」
私は慌てて、止まっていた手を再度動かし始める。