第22章 息抜き
「俺も今来たところだ。行くぞ」
兵長の今日の出で立ちは、兵服ではなく私服だった。
黒いズボンに、襟のついていないシンプルな白いシャツ。それにダークグレーの上着を羽織っているので、普段の兵長とはまったく雰囲気が違っているように感じるのだった。
その後ろ姿を追いかけている時、今更ながら私はある事に気がついた。
(あれ…?これって、デートと言えなくもないんじゃ…)
その瞬間、思い浮かんだのはペトラの顔だった。
彼女の兵長に対する好意を知りながらこのようにして出かけるのは、裏切り行為ではないのか。
スタスタと歩いていく兵長の後ろ姿を追いかける足が止まる。
このまま兵長と出かけたことを彼女が知ったら、きっと悲しむだろう。
あの美しい顔が悲しみで歪むのを想像して、私は胸が痛くなる。
「おい、どうした。さっさと行くぞ」
「あ、あの…兵長…私…」
やっぱり行けません、とはこの状況ではなかなか言いにくいことだ。
…どうしたらいいのだろう。
「早くしろ。おひとり様一つまでの目玉商品が売り切れちまう」
「…へ?」
予想外の兵長の言葉に、私は目を丸くした。目玉商品?何の話?
「掃除用具だ。絶対にこの機は逃せねぇ。ラウラ、お前には素質がある。ぜったいにアレを手に入れて来い。そのために連れて行くんだからな」
何の素質?と兵長の言葉に疑問符が浮かんだが、その迫力に気圧されて後を付いていった私は、店の前に立ってようやくその言葉の意味を理解したのだった。