第22章 息抜き
そこは兵長行きつけの掃除用具店だった。
確か、以前ライデンのおじさん夫婦に絵を渡しに行った時、この店で買い物をする兵長にお供した覚えがある。
「…買い物要員としてだったんですね…」
「あ?何か言ったか?」
セール目当てに集まってきている客たちを鋭い視線で牽制している兵長は、完全なる臨戦態勢に入っており、まるで壁外調査の時のような表情をしている。
その殺気に背筋が凍るようだったが、一方で私は安堵したのだった。
(こういう事なら…デートとは言わないよね。…というか、兵長は微塵もそんなこと思っていないみたいだし、また私の自意識過剰だったみたい…)
ホッと胸をなでおろしたのも束の間で、兵長からかけられている期待に答えなければいけないという別のプレッシャーが重くのしかかってきたのだった。
…
お目当ての目玉商品とは、兵長が普段から愛用されている雑巾のことだった。
それの20枚セットになったものが、通常の半額で買えるとあってわざわざやって来たのだ。
ご婦人方の荒波に激しく揉みくちゃにされながらも無事に商品を手に入れて戻ってきた私に、兵長は今までに見せたことのないような表情を浮かべて「よくやった」と褒めてくれた。
その顔を見て私は、以前ハンジ分隊長が言っていた言葉を思い出す。
「リヴァイが笑うのは、掃除に関する話くらいかな」
あれがこういう事だったのかと、私はこっそりと納得したのだった。