第21章 依頼
「兵長っ!お疲れ様ですっ」
ペトラは、思いがけずリヴァイ兵長がいたので慌てたらしく、緊張した顔をして敬礼をした。
そう言えば、ペトラがこの部屋で兵長と鉢合わせるのは初めてだったのかもしれない。兵長はほとんど毎日いらっしゃっているから、それとかち合わなかったというのは逆にすごい。
「あぁ」
敬礼をしたペトラに返事をしてから、兵長は椅子から立ち上がった。そのままスタスタと私たちの横を通り過ぎていくと、
「邪魔したな」
とだけ言って、開けっ放しになっていた扉から出て行ってしまった。
兵長はいつもこんな感じでフラリと帰っていかれては、またフラリとやって来る。その動きはまるで猫のように気まぐれだ。
リヴァイ兵長が部屋から出て行かれた後、ペトラはしばらくの間絵を見て回っていた。
部屋のあちこちに乱立するようにして立てられたイーゼルに飾られた絵を順々に見て回りながら、ペトラは「わぁー」とか「へぇー」とか声を上げる。
「よくこんなに精巧に描けるね。まるでその場面を切り取ってきたみたいだもの。まさに芸術品だわ」
次々と飛び出してくる称賛の言葉に、さすがに褒めすぎじゃないかとも思ったけれど、数少ない友人に褒められたのだから嬉しくない訳がない。私はちょっと照れながらもお礼を言った。
頬を赤くしている私を見てペトラはクスクスと笑ってから、少し声のトーンを落として、まるで内緒話でもするかのような口調になった。
「ところでさ…、兵長ってよくここにいらっしゃってるの?」
アトリエには私たち二人しかいないというのに、ペトラはきょろきょろと周りを見回している。よほど聞かれたくないことなのだろうか?
「うん、ほとんど毎日だよ。絵を見るのが好きみたい」
「そう…」
私の返事を聞いた途端、ペトラの顔が少し悲しそうに陰ったので私は首をかしげた。何かまずいことでも言ってしまったのだろうか?でも思い当たることがない。