第21章 依頼
「あぁ、いや。君がまた自分の頬を叩いてしまうのではないかと心配になったものだから。だが、どうやら今回は大丈夫みたいだね」
ははは、と高らかに笑って、団長はするりと手を離していった。
「あ、はは…」
私は、初めてエルヴィン団長に絵を見せに来たとき、「これから兵団のために巨人の絵を描いてくれ」と言われ、喜びのあまり自分の両頬を叩いてしまった事を思い出して、苦笑いをした。
今思い返してみても、本当にバカみたいな行動をしてしまった…。団長は頭がいいから、そんなことまでよく覚えていらっしゃる。もう忘れてほしいんだけどな。
この時ばかりは、団長の圧倒的な記憶力が恨めしく思えた。
「まぁ、冗談はさておき、頼んだよラウラ。全兵団のトップに、壁外の現状を正確に伝えるというのは、非常に大きな意味がある。私たちの活動を理解してもらうことが、今後の調査兵団の動きを左右するといっても過言ではないのだ」
急に厳しい表情になった団長の言葉に、私はごくりと唾を飲み込む。じわじわと、事の重大さが分かってくるにつれて、光栄な気持ちよりも責任の重さの方が大きくなってきた。
私の表情が固くなったことに気づいた団長は、またフッと表情を緩めた。
「とは言え、君はいつも通りに描いてくれればいいんだ。総統もそれを望んでいらっしゃる。外で見たものをありのまま描いてもらいたい」
「はっ!」
微笑んだ団長の顔を見て、先ほど「見覚えがあるな」と思った顔のことを思い出した。それは父だ。私が初めて自分の絵を売りに出した時、父はあんな表情をして誇らしげに笑ってくれたんだった。