第21章 依頼
「ダリス・ザックレー総統をご存知だね?実は総統から、『是非絵を見せて欲しい』と依頼が来たんだ。先日改訂した訓練兵用の教本をご覧になられたようでね」
そう言って、今度こそ隠さずににっこりと笑ったエルヴィン団長の顔は、暖かな春の日だまりみたいだった。
「え…っ、そ、総統が…??」
ポカンと口を開けた私を見ると、団長は椅子から立ち上がってこちらに向かって歩いてきた。
カツン、と私の目の前まできた団長は、晴れ渡った秋空のような瞳で私のことを優しく見下ろす。
「全兵団を取りまとめるトップからこんなことを希望されるなんて、本当にすごいことだ。ラウラ、やはり君の才能は素晴らしい」
ニコニコと笑うエルヴィン団長の顔は誇らしげで、それを見た私は、何だかこの顔には見覚えがあるなぁと思った。
「近々、次の壁外調査を控えている。その調査で見てきたものを描いてくれればいい。言うまでもないことだがラウラ、絶対に死なないでくれ。これは絵のためだけじゃなくて、一人の兵士としても」
「は、はいっ!」
私は、この部屋に来てから一度も解いていなかった敬礼を、再度構え直して返事をした。
あぁ、どうしよう。どんな絵を描こう。総統にはお会いしたことなどもちろんないから分からないけれど、どんな方なんだろう。優しい方?厳しい方?お年はかなりご年配のようだけど、見た目はどんな風なんだろう。
そんなことを考えていたら、唐突にエルヴィン団長が言った。
「時にラウラ、両手を出してくれないか?」
「?」
じいっと空色の瞳で見つめられて、私は何のことだかさっぱり分からなかったけれど、とりあえず両手を前に差し出した。
団長は私の両手を見下ろすと、そっと手首を握ってきた。
「?!あの、団長?」
私は団長の行動の意味が分からなくて、豆鉄砲をくらった鳩みたいな顔をしてしまった。