第21章 依頼
新しい教本が訓練兵たちに配布されたと聞いてからすこし経った頃、私は団長室に呼び出された。
描いた絵を見せるために普段から団長室を訪れてはいるものの、こうやって改めて呼ばれると、やはり緊張する。
怒られたりしたらどうしよう…という不安が、ふと頭をよぎる。
そんな不安で胸をいっぱいにしながら団長室のドアをノックすると、意外にも明るい声で返事が返ってきた。
「ラウラか?入ってくれ」
ドアを開けてもいないのに私だと分かったのは、すでに私が何度もこの部屋を訪れており、エルヴィン団長はその素晴らしい記憶力で私のノックの音を覚えてくれているからだった。
本当に団長は、些細なことでもよく覚えている。それは誰に対しても、何に対してもだ。
団長の頭の中は一体どんな構造になっているんだろう。頭の中のどこにどうやって、あんなに膨大な量の情報をしまっているのかと、いつも不思議に思う。
「失礼します」
少し開けた扉からスッと素早く中に入ると、静かに扉を閉めて私は敬礼した。
「うん」
大きな事務机に座って仕事をしていた団長は、私が敬礼するのを見て頷いた後、ちょいちょいと手をこまねいて「こっちに来い」という仕草をした。
団長は、他の人がいるときは厳格な表情を崩さないけれど、二人きりのときには意外とお茶目な行動をしたりする。
ちょっとセンスがよく分からない時もあるけれど、ジョークを言ったりすることもあるのだ。
私が机の前にまで歩いていくと、団長は顔の前で手を組んで少し口元を隠すようにした。だけど少し唇の端が上がっているのが見えて、団長が微笑んでいるのが分かった。
「実は君に頼みたいことがあるんだ」
「はっ!」
その口調はとても優しかったけれど、これは団長からの”指示”である。私はかしこまって、再度敬礼をした。