第20章 阿呆
突然、固まったように動きを止めた私の様子に、ヘルゲとミアは心配そうな顔をした後、シュンと肩を落とした。
「あ、あの、ごめんなさい、急に声をかけたりして…ご迷惑でしたよね」
今にもトボトボと去っていってしまいそうな二人の様子を見て、遠のきかけていた意識を私はなんとか手繰り寄せて、唇を震わせながら言った。
「もしかして、私の絵のことを褒めてくれているの?」
「え?!」
私の言葉に二人は目を丸くして、驚いたように声を上げた。
「もちろんです!むしろ、それ以外にないですよ!」
「……え」
私の頭の中にある記憶を保存している本が、ものすごい勢いでめくられていった。まるで走馬灯のように、記憶がどんどん思い起こされてくる。
記憶の中のどの場面を見ても、私はいつも一人だった。
同期の子たちが楽しそうに話している時でも、私は少し離れたところで絵ばかり描いていた。
訓練のこと以外で話しかけられたのなんて、本当に数える程度。いつだって私は一人で黙々と絵を描いていた。
「そんな…、私、みんなに嫌われてるんだと、思ってた…」
頭の中ではすごい勢いで記憶が巡っているというのに…、いや、だからなのか言葉がなめらかに出てこない。途切れ途切れになりながら、私はなんとか声を絞り出した。
「えっ?!ラウラさんのことをですか?!まさか、そんなこと絶対無いですよ!!」
ギョッとした表情をして、ヘルゲとミアが食ってかかるようにして言ってくる。
「だって私、あまりみんなと話すことも無かったし…」
その言葉に、二人は思い当たることがたくさんあるような顔をしたが、すぐにブンブンと顔を振って話し始めた。
「た、確かにラウラさんに話しかける同期は少なかったかもしれません!でもそれは決して嫌っていたからとかではなくて、…何というかみんな緊張していたんです。
ラウラさんは2歳も年上だし、いつも難しい顔をして絵を描いていたから、声をかけたら邪魔してしまうかな…と思って…」
ヘルゲの言葉に、ついに私はトドメをさされた。