第20章 【番外編】マツノトクエスト 第十九章
「っ、そう、じゃ、なくて━━━━━━━━━━」
「え、おぁっ」
湖で上から下までビショビショになってしまった体を、私を助けてくれた時に濡れたと思われるおそ松が引き寄せる、途端私はその体に抱きすくめられてしまう。
当然、こんな事はこの世界に来てから一度たりともされた事がないので驚くのだが、少しだけ懐かしい感覚に目を閉じる。
手から伝わる振動に、おそ松も少し震えているのがわかった。
「ど、どどどっどうした勇者おそ松! 私にこんな事するなんて何かあったの?! よっぽど女が恋しくなっとか……!」
「なに馬鹿な事言ってんだよ、あのな! 俺さぁ、思い出したんだよ……お前の事も、兄弟の事も……ゲームの事も」
「えぇっ」
「だから、ごめんな?」
いつの間に思い出したのか。
私はまだおそ松に呪いの解除なんてしていない。
「い、いつ?!」
「つい今しがた? ナス子が溺れて引き上げた時に息がなくて……あれだ、じっ、人命救助したっつーの?」
人命救助という事はあれか、あれをしたのか。
「人工呼吸スか?」
「うん、そう。そしたらさ、俺の股間が赤く光ってそんで急に頭の中がクリアになったっていうの?」
なるほど、そういう事だったのか。
やはり股間は光るのか……いやいや、そうじゃない、そうじゃないだろナス子。
呪いの解除は唇を合わせれば私の意識がなくても解除できるという事がわかったな。
って、解析してる場合でもないって。
おそ松の記憶が戻ったと言う急な出来事に、動揺しすぎて頭の中は逆にパニックからおかしくなっている。
「一番最初に出会った癖に、遅いんだよバーカ! 私がどんだけ寂しかったか……」
「呪いの解き方知ったのはちょっと前だってトド松が言ってたぞ?」
「う……」
いつも素直になれない相手でも、ずっと感じていた寂しさはその穴を埋められ温かな感情へと変わっていく。
まだ他にもやらなきゃけない事はいっぱいあるけど、やっと長男の記憶が戻ったと言う事でまた涙腺が緩みそうになってしまった。
━━━━━━━━━━泣き虫か!