第20章 【番外編】マツノトクエスト 第十九章
「えっと、さ。時に……ナス子」
土下座体勢から地を見ていた私は唐突におそ松の口から自分の名前が出てきた事で目を丸くした。
「え、どうしたのおそ松。急に私の名前なんか呼んで……今まで一度だって」
なんだろう、名前を今まで呼んでくれなかった事が私は思っていたよりも堪えていたようだ。
寂しいって感情はその理由もあった訳だし。
なんだか認めてもらえてないような、そんな感じで。
額を地面につけたままの姿勢だが手が微かに震えて、唇まで多分震えてしまっていたと思う。
他の皆は記憶がなくっても名前は呼んでくれてたからそこは嬉しかったけど、おそ松の場合は……。
「━━━━ごめん! マジごめん!! ほんっと悪かったああぁ!!」
そんなおそ松はコチラの姿を見たのか見ていなかったのかはわからないが、同じく私の前に土下座する。
怒られたばかりだと言うのに、何でおそ松が急に土下座して謝罪をしたのかわからなかったが、思い返すとさっき自分はおそ松の失礼な態度に憤慨して宿を出たのだった。
「は、はぁ?! どうしたの?! もしかしてさっきの事謝りに来たの?」
「……あ~、いや……それもあるんだけどぉ」
二人で状態を起こして目が合うと、相手は気まずそうにも私から視線を逸らす。
他にも何か含みのある言い方に、私はキョトンとしていると思う。
頭を掻いて口を半分だけ開けて少しだけ泳いでいた視線が、やっと私と合う。
「ナス子、俺……」
「うん、もういいよ。助けに来てくれたし! 一人で勝手に何も言わずにクエスト行ってごめんね。さっきの言い方には腹が立ったけど、仲間割れしてる場合じゃなかったよね、私も躍起になっちゃって、ホントにごめん」
あんなにキレていた事が嘘だったかのように、今はスッキリしている。
そりゃ、命が助かったんだ、スッキリしているのは当たり前かもしれないが、なんだかんだ言いつつこうやって助けに来てくれたという事はあの時の言い方は酷いにしろ私の事を嫌ってるとか邪魔とかは思ってないかもしれないと思うと少し安心出来た。
私もびしょびしょになった頭を掻いておそ松に笑顔を向ける。