第3章 後編
「アーデンはあの国に行ったことがあるのですか?」
「んー、あるにはあるよ。外交の場で何度か。向こうはオレの顔見たらびっくりするだろうね」
流石にアーデンの顔はどこでも知れ渡っているだろう。
冗談ぽく変装でもしようかと、ダッシュボードを漁ってサングラスを取り出した。
「アーデンが辞めたことは知らされてないんですか?」
「知らないだろうね。公式ではまだオレが宰相だし。暫く落ち着くまでは、公表しないんじゃない?」
まぁ顔さえ隠せば大丈夫でしょ。ただのおっさんだし、今のオレ。
そう言ったアーデンにユーリは思わず吹き出してしまった。
果たして彼の変装作戦がどこまで通用するか分からないが、折角手に入れた自由なのだから、ゆっくり満喫して欲しかった。
ユーリは気持ちの良い風を受けながら、景色を眺める。
彼の運転の上手さは相変わらずで、油断すれば眠ってしまいそうだった。
そして数時間ほど走った頃、目的である国、リエン王国が見えてきた。
オルティシエと同じで、海に面したその国は、白く美しい建物が連なっており、潮の匂いを含んだ風が吹き抜けていった。
車を街の入り口の駐車場に止めて二人は車を降りると、街路には色とりどりの旗がはためき、観光客や地元の住民で賑わっていた。
王女の生誕祭に相応しく装飾された街並みはとても華やかだった。
「いい天気だね。絶好の観光日和だ」
帝都とはまた別の雰囲気を持つ国は、ある意味新鮮なのだろう。
宰相として訪れたときと今とでは、感じ方が大分違うはずである。
人間に戻ったアーデンは、あの分厚いコートを脱ぎ、季節に合わせた服装を着るようになった。
袖口から覗く肌は、血の通った人間の色をしており、肌を露出できるようになったアーデンを、ユーリは素直に喜んだ。
手の平を太陽にかざしながら、どこか興味深そうにしていたアーデンだが、ユーリの視線に気づいたのか、その手を取りそのまま宿へと案内した。