第3章 後編
「じゃ、何かあっても連絡しないでね」
出発する当日、アーデンは最後の調整のためにレイヴスの元を訪れていた。
会った瞬間から険しい表情をしているレイヴスに、軽く手を上げてにこやかに旅立とうとしているアーデン。
これから暫くは忙しい日々を送るのだろう。
レイヴスはため息を吐くと、鋭い眼差しでアーデンを射抜いた。
「見送りはしないぞ。…ただ、一つだけ言っておく」
ーーー手にしたものを、無駄にするなよ。
レイヴスの言葉にアーデンは笑みを深めると、はいはいと言ってその場を去った。
レイヴスが言う手にしたものとは、自由のことか、それともユーリのことか。
どちらにしてもアーデンは、手放す気などさらさらなかった。
これから先のことを考えると、楽しくて仕方ない。
アーデンが城を出て暫く歩くと、見慣れた愛車とその隣にユーリの姿があった。
ユーリはまさか本当に仕事を辞めてくるとは思わず、半信半疑で待っていたが、彼の表情を見ると有言実行してきたのだろう。
「お疲れ様でした」
今までのアーデンの労力、といっても復讐のために費やした時間の方が多そうだが、ユーリはこれまでのことを含めて、そう労った。
アーデンは一瞬きょとんとしたが、すぐに笑みを浮かべるとユーリを助手席に載せた。
そしてアーデンも車に乗り込むと、エンジンが低く唸りを上げ、城門を滑り出した。
バックミラーに映る帝都が少しづつ小さくなってく。
長い間囚われていた呪縛から、解放された気がした。
車内は静かだったが、気まずい感じはなく、これからの旅にそれぞれが期待に胸を膨らませていた。
「今から向かう国だけど、いい宿知っているから、まずはそこに向かおうか」
ハンドルを握りながらそう提案してくるアーデン。
以前仕事で訪れたことでもあるのだろう。下手したら世界中どこでもある程度は知っていそうで、何とも頼もしい限りである。