【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】
第95章 それ以上に、好き
居心地が悪く感じていた部屋が、なぜかとても居心地が良い。
不思議だ。
歯ブラシも変わらず二本、食器だって、グラスだって――
「寂しかったんだ」
勝手な言い分だと我ながら思う。
だけど、埋まらなかった何かが、この部屋にいると埋まっていく。
そんな気がする。
寝室に入って、ギターを眺めた。
勝手に触ったら、さすがに怒られるだろうか。……否、多分、怒られない。
触らないでくださいね、と言われたあの日の冷たい声をなぜだかもう向けられることがないと思っていて――
そんなふうに思って小さく笑う。
随分と甘やかされてたんだなって。
「……戻ってきちゃった」
怖かった。
期待されてる目が。
会うたび、私を見ているのに見ていない、彼が。
怖くて、――嫌だった。
なのに、甘い声で話されると……もっとってなる。
そんな私のことを少し小馬鹿にしながら、でも、……愛しいっていう顔をしてるから……好き。
思い出したくない何かがあった。
その何かが思い出せないけれど――
もう少し。
思い出しているのに、思い出せない。
記憶をなくしたのも、私の選択だと思ってると彼は言った。
多分それは、当たってるのだろう。
精神的なものだと医師も言っていたし……それほどまでに、彼のことで後悔、…………浮気してたならしてるか。
彼に浮気がばれたとか、そんなところだろうか。
「……たぶん、違う」
それは小さな理由にしか過ぎない。
零の邪魔に、なるから。
会ったことを後悔してしまいそうになったから。
忘れたことで……忘れてででも、離れたほうが良いと思ったから。
ずきん、と頭が痛い。
「好き」
口にすると、心が重くなる。
好き。
好き。
「零が、好き」
好きだから――離れたほうが良いと思った。
その選択肢も、考えないといけないと思った。
思ったのに、離れたくなかった。
嫌だった。
そばにいたかった。
そばにいさせてほしかった。
感情がうるさい。
私の感情なのに、違う感情。
「東京サミット……」
目につく場所にあった新聞が、いくつか。
爆発の文字と、テロの文字、それから――無事開催……終了。
頭が、痛い。
ガンガンと殴られるような痛さ。
「……嫌」
怖い。
嫌。
「零……助けて」
思わず口にしていた言葉は、ひどく遠くに聞こえた。
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