海賊の医者は美しい瞳の少女に魅了される【ワンピース】
第3章 新しい旅
頬になにかが伝う感覚を感じて触れてみる。
泣いていた。
殺されそうになった時でさえも涙なんか出なかったのに…
情けない。
私は弱い。
自分のしたいように、しようと思えばできるのに、それもできない。自分がどうしたいかさえ分からない。
ローの言った通り。こんなんじゃ、家族なんて助けられるわけない。
弱い。弱い。
自分の弱さを実感する度に止めどめなく涙が溢れ出してくる。森の中で座り込み、声を上げて泣きじゃくった。
「レディに涙は似合わないぜ?」
「え…?」
突如聞こえた声と同時に頭の上に柔らかな温かさを感じて、顔を上げる。そこには、黒いスーツを着た、金髪の男が立っていた。
「何かあったのかい?マドモアゼル?」
初めて会うけどその人は悪い人には見えなくて、ゆっくりと話し出す。
「私っ…助けてもらったのに…なんかわかんなくて…ローが…」
うまく話せなくて、嗚咽混じりにぽろぽろと言葉をこぼす。
「ロー?ったく、あいつこんなにかわいいレディを泣かせやがって…」
「…?え?ローのこと知ってるの?」
「ん?ああ、ちょっとな…」
彼は曖昧な笑みを浮かべる。
「とりあえず俺達の船に来るか?話聞くぜ?」
「ありが…と」
私は上を向いて微笑んだ。それを見て、彼は私に笑みを返した。
「さ、どうぞ」
差し出された手を取り、立ち上がる。
先に歩き出すその人に、小走りでついて行き、隣に並ぶ。今は誰かと話していたい気分だった。
彼の言う、船に着くまで話していた。
話しながら、自分の行動を振り返ってみた。何度思い返しても、悔やむべきことだと改めて思う。そしてその度に、時間が巻き戻ってやり直せれば、と考えた。
「ここだ。」
突然、森の端の開けた場所に着いたことを知らせる声が響く。
立ち止まって、斜め上を見る。目の前には麦わら帽子の海賊旗を掲げた船が停泊していた。
「あなた達の船ってこれ?海賊なの?」
「あんまり驚かないんだね?」
「だって、ローも海賊だし。」
「そうだね…行こうか。」
私達は再び歩き出し、私は導かれるままにその船の中に入っていった。
「あら、お客様?」
甲板でベンチに座り、優雅に本のページをめくりながら女の人がこちらに問いかける。
「うん、そうなんだ。えーと」
「マリィです」
「よろしくね、マリィ。」
ふわりと微笑んでそう言ったその人はとても綺麗な人だった。
