海賊の医者は美しい瞳の少女に魅了される【ワンピース】
第4章 少し寄り道
メルドside
翌日、日没の時刻。俺達は聖目族総出でマリィ達の見送りに来ていた。
「それじゃあみんな、お世話になりました。ありがとね」
「そんな…っ、勿体ないお言葉です」
「瑠璃姫様…ありがとうございました…っ」
「メルド、ジュリちゃんをよろしくね」
「任せてよ」
マリィは1度微笑むと、船の方へ向き直る。でも、「あ」と声を漏らすと、再びくるりと振り返った。
「ねぇ、メルド。最初に会った時、私は何も知らないって言ってくれたでしょ?」
…言った。言ったけど……でも
「私は、本当に何も知らない。それは、本当に無力で恥じるべきことだと思った。だから」
今はもう、あんなことは言えない。
あんたはそんなに弱くないと、知っているから。
「色んなことを自分の目で見て、どんなことからも目を逸らさずに、知らなくちゃならないと思うの」
ほら。
その強い志を前にすると、頷くしかできなくなるんだ。
「うん」
「行ってくるよ、メルド。そして、母さん達をここに連れてくるから。」
「待ってるよ」
「メルドも、頑張ってね」
遠ざかっていく背中を、見送ることしか出来なくて。
結局、この想いを伝えることなんて出来ない。
それがなんだか歯がゆくて、思い切り叫んだ。
「マリィ!俺らは全員、あんたの味方だから!」
「ああ、そうだ!」
「その通りだ!」
だから、何かあれば必ず駆けつけると。
助けると。
守ってみせる、と。
それだけでも伝えたくて、ただ叫ぶ。
「だから、頼ってよ!!」
本当は最初から、伝えたかったのはそれだけ。
頼ってほしかった。
マリィがローを頼るように。
俺も、頼られたかったんだ。
でもそれだけじゃダメだと、分かったから。
「俺も、頼るから!」
お互い背を預け合う。
それで初めて、信頼は生まれる。
片方が寄りかかっているだけじゃ意味が無い。
「ありがとう!」
花のように笑い、今度こそ船に乗り込む背中を見送る。
彼女の笑顔を、その姿を、目に焼き付けるように見つめた。
きっと、この想いが実ることも、伝えることさえ叶わない。
でも次に会えるときは、従兄弟として、仲間としてマリィを支えたい。
一筋涙が頬を伝った時、右手には俺の瞳と同じ、緑の光を放つ小石程度の石が握られていた。