第9章 梅雨入りの午後(東峰旭)
また、土砂降りの日に中庭に行くと、彼女はいた。
同じようにいつもの緑茶を買い、気づかれないように隣に座る。
雨蛙が鳴く声が、余計に寂しさを演出してくれる。
強い雨に打たれ、紫陽花がその重たそうな頭を上下に揺らし、止みそうにない天からの恵みを受け入れている。
「あの、なんか、あった?」
なけなしの度胸をかき集めて聞いてみた。
彼女はハッとしたようにこちらを向いて、また俯いた。
「その、学年も違うし、俺、君のこと知らないし、独り言くらいなら聞いてあげるよ?」
「………」
彼女はまたため息をついた。
申し訳ないのだけど、その姿があまりにも綺麗で…、一瞬戸惑う。
何を思ったのか、彼女はやはり立ち去ってしまった。
しとしとと寂しそうに雨が降る。
まるで彼女の心を顕しているようだと思った。
帰り際に職員室前を横切る時、さんの声を聞いた。
「先生、私…もういいです、大会出ません……」
「どうしたんだ?急に」
顧問との会話だろうか。
彼女は確か陸上部だったと聞いた。
後輩の言うとおり、何か悪いことをして大会に出ていた……?
嫌な予感がする。
趣味悪いと思っても、聞き耳を立てて二人の会話に集中した。
「別に。君が出なくても俺は困らないけど。
大学の推薦はどうする?
それと………君の友達は?」
「…っ!!」
(友達?)
上手く整理が出来ないが、脅されているのは間違いがない。
「……ほんとに…?」
「君が出ないなら他の娘にあたるまでだ。
訓練つきでね?」
「………わ、わかりました…、私で、構いません…」
さんは、更に一層悲しそうに床を見つめた。
どのくらい追い詰められているのだろうか。
「早速今からやろうか」
教師とは思えないその表情をこっそり伺う。
何か、証拠が掴めないか。
デカい図体を隠すのは得意じゃないが、なんとか上手く尾行してみた。