第3章 秘密の花園【東堂尽八】✳︎リクエスト作品✳︎
「最近イイ感じじゃナァイ!」
景気の良い声が後ろで弾けた。
荒北が追いついてきたらしい。
「フン!最近?俺はいつも絶好調だが?」
「ハッ!よく言うぜ!」
隣に付いた荒北がニヤリと笑う。
荒北は意地悪そうな笑みを浮かべたまま言葉を続けた。
「ま、絶好調の東堂様には分かんねェのも仕方ねェが、もうちょっとファンの管理はちゃんとしといた方がイイんじゃナイ?」
「?どういう意味だ?」
皮肉めいた言い方に思わず顔をしかめる。
確かに最近少し応援に来ているファンが減ったような気がしたが、コイツはそんなことを気にするような奴じゃない。
「だぁから別に分かんなくてもイイんだって!本人も知られたくねェみたいで、テメェの前では必死に隠してっから」
「本人?」
「ただテメェは知っときたいんじゃねェの?」
荒北の声がワントーン下がり、その口元から笑みが消える。
「なんだ?はっきり言え」
俺はこの男らしからぬ物言いに苛ついた。
「名前は忘れちまったケド、あの暗い花女。今、結構キてると思うってことだヨ」
しかし荒北は俺の苛つきには反応せず、無表情で前を見据えたまま言った。
暗い花女。
失礼な言い方だが、その表現で思い浮かぶのはただ1人だった。
彼女がキてる?今、辛い状況にいるということか?
「どういうことだ?」
心臓が変なリズムで鳴り始める。
彼女に一体何が?
「たぶん、お前のファンから嫌がらせ受けてるっぽいぜ?そんな雰囲気あるだろ?今」
雰囲気?そんなもの感じなかった。
俺は自転車のことで頭がいっぱいで。
「ずっとここで待っています」
そう言って笑った彼女の姿が頭に浮かぶ。
教室で目が合うと同じような優しい瞳で彼女がいつも笑い返してくれたから。
浮かれて。
安心しきって。
彼女はずっと笑ってくれているものだと思い込んで。
自分だけ癒されて。
「ま、俺は女同士のごたごたに首突っ込むなんて、何があっても絶対にゴメンだが、テメェは違うだろ?ちゃんと守ってやれよ。好きな女くらい」
「あぁ、荒北。礼を言う。ついでに福に言っておいてくれ、俺は先に行くと」
「ハァ?ま、今度なんか奢ってくれんならって、、、オイ!せめて俺の返事くらい聞いてから行くもんじゃナイ!?っつか好きな女ってトコ否定しねェのかヨ!つまんナイんだけど!」
