第3章 秘密の花園【東堂尽八】✳︎リクエスト作品✳︎
家に帰って夕食の席に付いた時、すぐに分かった。
テーブルに私の好きなものばかりが並んでいたから。
「美月。実は、、、」
お父さんが申し訳なさそうに口を開く。
「大丈夫。分かってるよ。また転勤でしょ?」
「すまない、もう少し長くいられると思ったんだけど」
「大丈夫だよ。私は平気。いつから?」
「9月に入ってすぐの着任なんだ」
「そっか、、、じゃあ引っ越しは夏休み中にはしなきゃだね」
思わず、東堂くんのレースのことを考えた。
だけど、すぐに頭から追い出した。
もう、決めたんだ。
もう、、、東堂くんには近づかないって。
「ごめんね、美月。せっかく最近楽しそうに学校行ってたのに」
お母さんが眉をハの字にして言う。
「え、、、?」
私、楽しそうだった?
そんなことを言われるのは初めてだった。
「今回の学校はあなたに合ってるのかもってお父さんと話してたのよ。だから、、、」
お父さんとお母さんが目配せをする。
「美月も高校3年で受験も近いし、変に転校するよりも、もし今の学校にいたいならお母さんとここに残ってもいいかなって」
「えっ、それって」
驚いてお父さんを見る。
「ああ、お父さんが単身赴任するってこと」
照れたような泣きそうな顔でお父さんは笑った。
お母さんも私を見て微笑んでいる。
きっと2人は本気で私のことを考えてくれたんだろう。
だけど、私の答えは決まっている。
「、、、ありがとう。だけどそんなこと頼めないよ。お金だってその分かかっちゃうんだし、お父さんも寂しいでしょ?私なら大丈夫。受験にだって問題ないよ」
「え、だけど、、、」
「今の学校は確かに悪くないけど、特別とかそんなんじゃないし。ね?だから気にしないで」
私は笑った。
ちょうど良い機会じゃない。
これで、東堂くんは大丈夫。
頑張って離れる必要もなくなる。
離れてしまえば、きっとそのうち、
この胸の痛みも消えて無くなる。