第3章 秘密の花園【東堂尽八】✳︎リクエスト作品✳︎
誰かの気紛れは、思ったよりも長く続いた。
何故か教科書には落書きが増えていったし、体操着には靴跡が毎日付けられた。
それでも本当に大丈夫だった。
何度も転校を繰り返してきたから、こんなことには慣れっこで。
痛いだなんて、思ったことはなかった。
ただ私はたまに教室で目が合えば、彼が笑いかけてくれる。
それだけで幸せだったから。
だけどある日
彼が好きだと言ってくれた裏庭が荒らされていた。
彼が私のようだと言った真っ白だったスズランが、土まみれになって倒れている。
その潰れてしまった花を撫でた時、初めて、痛いと思った。
「クスクス、、、抜け駆けなんかするから」
「かわいそー」
「東堂様も何であんな子に」
「本当。正直、ガッカリしちゃった」
「どうせ、あーいう子ひっかけて遊んでるんだって」
「あーあ、私もう応援するのやめよっかな」
「私も同じこと考えてたーバカみたいだもん」
急いで声の方を振り返ったけれど、そこにはもう誰もいなかった。
「違う、、、東堂くんはそんなんじゃない」
私は何も分かっていなかった。
私みたいなのが東堂くんに近づくことで、東堂くんがどういう風に見られるか。
東堂くんのどれだけ邪魔になってしまうか。
「私が、私が勝手に、、、」
私が勝手に憧れて。
勝手に楽しいなんて思って。
勝手に、好きになってしまっただけなのに。
「東堂くんは関係ないの、、、」
私のせいで、東堂くんの人柄も。
努力も。
全部無いものになってしまう。
「実は俺はここ数ヶ月、全く走れていなかった」
そう言って悲しそうに微笑んだ東堂くんの横顔が浮かぶ。
せっかく走れるようになったと言っていたのに。
必ず優勝すると不適に笑った東堂くんの顔を思い出して涙がこぼれた。
もうやめよう。
そう思った。