第3章 秘密の花園【東堂尽八】✳︎リクエスト作品✳︎
その日もいつもの時間に東堂くんがやって来た。
あれから毎日やって来る彼にもう緊張はしない。
不意に垣間見えるどこか気の抜けたような表情も日に日に見えなくなっているようだった。
「あ。こんにちは」
「やぁ」
そう手を挙げた彼は一瞬だけ困ったように笑ったけれど、きっと気のせいだ。
彼が隣に腰掛けだ途端に、心地良い風が吹く。
その風は私の体の隅々まで染み渡るみたいだった。
「今日も休憩ですか?」
「あぁ、、、」
そう静かに答えた東堂くんにいつもの笑顔はなかった。
代わりにあるのは真剣な瞳だった。
彼と目が合う。
その大きな瞳から目を逸らすことはできなかった。
「「、、、」」
目を見開く私の頭に手を置いて、彼はふっと笑みを零した。
何だ、いつもの東堂くんだ。
ほっと息を吐こうとしたのも束の間、彼は言った。
「だが、明日からは暫く休憩はなしにしようと思っている」
「え?」
「もう大丈夫になったのだ。笹原さんのお陰で」
「あの、、、えっと?」
私の頭の中の、?マークが彼には見えているのだろうか。
東堂くんはまた微笑んだ。だけど今度は少しだけ悲しそうに。
目の前の花を見つめて。
「実は俺はここ数ヶ月、全く走れていなかった」
「、、、そうなんですか」
私には、走れるということがどういうことか分からない。
自転車の試合だって見たことがない。
けれど彼がふいに見せる悲しそうな表情のわけが、少しだけ分かったような気がした。
「だが君のお陰で、、、、っ」
「きゃっ」
東堂くんが言葉を発した瞬間にビュンと吹いた強い風に目を瞑る。
長い髪はこういう時に邪魔だ。
私はすぐに髪を整えながら、東堂くんに向き直った。
「ごめんなさい。えっと、、、」
「全くけしからん風だな」
東堂くんは怒ったような顔でカチューシャを外した。
その姿に思わず見惚れる。
サラサラの長い前髪が風に揺れる姿は何だかとても、、、。
「ん?」
って違う!
髪を整えながらこちらを振り向く彼と目が合って被りを振った。
「いえ!何でも、、、無いです、、、」
すぐに目を逸らしたから、気がつかれてはいないはず。
だけどどうしてこんなに顔が熱いんだろう。