第3章 秘密の花園【東堂尽八】✳︎リクエスト作品✳︎
このまま大人しく帰ろうか。
いや、しかしせっかく話すことができたのだ。
ここで帰ってしまえば、一生こんな機会はないのではないか?
いや、しかしあんなに落ち込ませて、彼女はもう話なんてしたくないのではないか?
いやいや、しかし、、、
どうしたものかと考えあぐねていると、
「というか、あの、東堂くんはさっき自転車の練習に行ったのでは
、、、?」
沈黙を破ったのは彼女だった。
それ自体は嬉しいのに、その質問に答える術を俺は知らない。
「アッハッハ!舐めてもらっちゃ困る。俺は天才だぞ!学校前の練習コースなんて、10分もあれば帰ってこられる!」
本当のことを言ってしまえれば楽なのに。
「あの、けれどまだ練習があるんじゃ、、、早く帰ってこれたとしても待っていなくていいんですか?」
本当は吐き出してしまいたいこのドロドロした感情を。
弱音を吐く術を俺は知らなかった。
「俺は天才だからな!」
違う。
天才なんかじゃない。
「、、、えっと、、、そういうものなんですか?」
「そうとも!なぜなら登れる上にトークも切れる!更にこの美形!天はオレに三物を与えた!!箱根の山神天才クライマー東堂とはこの俺のことだからな!」
毎日必死で練習して、
食事にだって気をつけて、
必死に登って、
ただ、ひたすらに走ってきた。
今までのそれは、
天才という一言で片付けられるようなものではないはずだ。
今までのそれは、
こんなことで崩れるようなものでもないはずだ。
それなのに。
なぁ。君も、こんな嘘を信じるのか?
俺がしてきた努力を無視して、何も見ようとしないで。
自分勝手だと分かっている。
自分で言った言葉を、ほとんど話したことのない彼女に否定してほしいと思うなんて。
しかし、それでも、、、。
そう縋るように彼女の目を見たとき、