第3章 秘密の花園【東堂尽八】✳︎リクエスト作品✳︎
トボトボと学校に戻る俺は、なんてかっこ悪いのだろう。
こんな姿、皆には見せられまい。
俺は裏門から部室へ向かうことにした。
「こんな所、通るのは初めてだな」
普段通ることのない道を力なく歩く。
こんなことは初めてだ。
この俺が、誰の目にも触れたくないと考えるなんて。
「ハァ、、、」
思わず溜息を吐いたと同時に
「ふぅー、終わったぁ」
清々しさに溢れた声が聞こえた。
その声は校舎を曲がった所から聞こえてきた。
俺はバレないようにそーっと覗いた。
こんな所に一体誰が、、、
「って、、、」
覗いた先には、なんとも美しい色とりどりの花が咲いていて、その中心に1人の女子がしゃがみ込んでいた。
「あれは、、、」
知っている。
話したことはないが覚えている。
誰もなりたがらなかった園芸係になった奇特な女子だったから。
名前は確か、、、。
俺はあの始業式の日のことを思い出した。
「コラ、東堂。テメェ、何ふざけてンだヨ」
新学年初めてのホームルームが終わり、部活へ向かおうと荷物を片付けていた時、相変わらずのガラの悪さで荒北に話しかけられた。
「ん?なんだ、荒北。俺は何もふざけてなどいないが」
「嘘こけ、バァーカ!さっきテメェ何、園芸係なんかに手ェ上げようとしてンだヨ!!」
あぁ、気づかれていたのか。
「しかし誰も面倒を見る者がいなければ花も可哀想であろう!俺は美しいものは放ってはおけないのだよ!」
「それがふざけてるっつってンだ!今年は福チャンのチームでインターハイに行くんだろーが!練習放っぽって、何が花だヨ!何がァ!!」
「まぁ良いではないか!結局、俺がならずに済んだのだしな!」
「バァーカ!そういうこと言ってンじゃねんだヨ!テメェ、まさかちょっと不調だからって、、、!」
「えぇっと、確か、、、あぁ、笹原さんだ。笹原さんがなってくれたのだったな!」
俺は荒北の言葉を遮って、座席表からその女子の名前を見つけだして読み上げた。
笹原美月。
美しい名前だと思った。
そして、あの時、緊張した面持ちで手を上げる姿を思い出して、思わず笑みが零れて、
きっとその心も美しいんだろう。
そう思ったのだった。