第2章 極寒の夜咄【ヴィクトル/R18】
ロシア、サンクトペテルブルク____
空港内の入国ゲートを抜けると、周りを見渡す限り彫りの深い顔立ちの外人ばかりのフロントへ出る。
流石に私のように日本人らしい平たい顔立ちの人達は観光客以外あまり見られなかった。
「何処だろう…マッカチンと一緒にいるって言ってたけど」
目当ての人物を探し求めて周りを見渡す。然し、一番人の多い空港のフロント、幾ら彼が目立つからといってすぐに見つかる訳もなく…
(電話、してみようかな…)
一通り歩き回って探した所で壁の方へ荷物を寄せて立ち止まり、携帯を手にしたその時___
『ワンっ!』
一際大きな犬の鳴き声が聞こえた。
そちらへ顔を向ける間もなく、茶色がかってフワフワした物体が私の元へ直撃してきた。
「わっ!………マッカチン!」
ちぎれそうな程に尻尾を振る彼の愛犬に会えて安心し、頬を緩ませながら頭を撫でようと手を伸ばした次の瞬間____
「!」
愛しい人の、愛しい声が聞こえ、そちらへ顔を向けるより早く私の体は彼の腕の中に閉じ込められた。
ヴィクトル「あぁ、……凄く会いたかったよ。俺の可愛い可愛い子猫ちゃん…」
私が何を言っても離すまいとする腕の中で私は硬直しながら耳元で艶やかに囁かれる彼の声音に聞き入っていた。
「…うん、私も会いたかった。久し振り、ヴィクトル」
そう言って腕を彼の大きな背に回す。マッカチンは何処か寂しそうに『クゥン…』と鳴いて大人しく床に座っていた。可哀想なので片腕を差し出すと『待ってました!』と言わんばかりに飛び付いてきた。
(マッカチンといいヴィクトルといい、犬が飼い主に似たのか、飼い主が犬に似たのか……)
私に会った時の二人(一人と一匹?)の反応ときたら、全く一緒で驚いた。
まぁ彼は常に人を驚かせるので、今に始まったことではないのだが。
それに驚いたのは私だけではない。突然の超大物選手の登場と今の私たちの構図を世へ広めようとカメラを片手にこちらを伺っている野次馬達が沢山いることに気付き、
「ねぇヴィクトル、積もる話は色々あるけど…先ずは、帰ろう?」
と彼の背中を軽く叩いて言うと、やっと腕の力を緩めて周りへ視線を走らせた彼が頷き、荷物を持って帰路へ着いた。