第1章 努力の垣間【勝生勇利】
私の生まれ育った町、九州長谷津____
この小さな港町で、一人の少年が大きな夢の姿を抱き、世界へ旅立って行った。
昨日降った雨で少し地面が濡れている今日この頃。私は《アイスキャッスルはせつ》を目指して歩を進めていた。
彼の実家である温泉旅館に顔を出したけれど、会いたい人は『練習へ行く』と言い残して走り去ってしまったらしい。いかにも彼らしい行動を思うと僅かに頬が緩んでしまう。
目的の建物の入り口を抜けると、受付で優子ちゃんが仕事をしていた。彼女が顔を上げて私を見ると満面の笑みを浮かべて
優子「いらっしゃいちゃん!勇利くんでしょ?来てるよ!」
と私の心を言い当ててしまった。そんなに分かりやすいかな…まぁ、他に特に目的が無いことは事実だけれども。
「ありがとう。相変わらず優子ちゃんは察しが良すぎてちょっと怖いよ」
優子「そんな事ないって!二人が分かりやす過ぎなんだよ。ほら、早く行ってあげて!」
そう言って小さく手を振る。私も手を振り返して場内へと足を踏み入れる。