第1章 真島という男
ニヤニヤしながら雅美に近づいてくる叔父に、
雅美は飴玉の存在を忘れ壁に背中をぴったりとつけて息を飲んだ。
その目は完全に脅え、表情すら強張っている。
今日はしなくても済むなと思っていただけに、心構えが出来ていなかったのだ。
「さぁ……、今日もたっぷり可愛がってあげるよ」
目と鼻の先まで近づいてきた叔父からは、臭いほどの加齢臭と頭髪剤が漂ってくる。
そしてシワだらけの手が雅美の腕を掴むと、
雅美は体をびくつかせて肩を縮めた。
逃げる事も、
逆らう事も許されない行為。
雅美はこの人間に人生を買われたのだ、あの手を取った瞬間から。
嫌でも脚を開いて、叔父を受け入れなければいけない現実。
快楽など一度も感じた事が無い。
雅美にとってセックスはただの苦痛な行為に過ぎないのだ。
「っ…くっ、はぁっ…!」
華奢な体を玩ぶように自身の欲望を雅美の中に突き刺す叔父。
雅美は叔父に顔を見られないように、自分の顔の上に手を広げ、
歯を食いしばりながら苦痛の表情を浮かべてただ時間が過ぎる事だけを待つ。
こんな関係がいつまで続くかなんてもう考え飽きた。
この牢獄のような家にいるかぎり永遠と繰り返されるのだから。
家を出たくても、給料の殆どを叔母にせびられているため貯金もろくにさせてもらえない。
それに家を出たとしても叔父の呪縛は何処までもついてきそうで、不安で仕方ない。
結局、自分はどこにいても逃げる事も離れる事も出来ないのだ。
この手に見えない鎖が繋がれている以上は。
「ぁあっ……イク!」
叔父が汗を雅美の腹にぽたぽたと垂らしながら激しく腰を振る。
そして漸く動きがぴたりと止まると肩で息をしながら、全てをゴムの中で吐き出して雅美の中から抜き出した。
「じゃ、おやすみ」
優しさもいたわりもない言葉を雅美にかけ、先端に精子がたっぷりたまったゴムをその場に投げ捨て叔父はやっと部屋を後にした。
「……」
暫く呆然として床に落ちたあの汚い異物を広いあげる気力もない雅美は、
知らず知らずのうちに睡魔という奈落の底に落ちていった。