第1章 真島という男
一際目立つあんな格好をしても、こんな人混みでは何の意味も持たないなんて。
雅美はタワーの入口前に着くとその場に立ち止まり目を凝らして捜すが 、
それらしい人間が全く見えず心の中に不安が一気に侵食し始める。
――やっぱりいないのかな。
半ば諦めかけながら、ふとタワー前にある電話ボックスに目線をやると、
体を丸くし膝を抱え寒そうに地べたに座り込む一人の人物が目に飛び込んできた。
見覚えのある服に雅美は電話ボックスへ慌てて駆け出すと、その人物に声をかけた。
「真島さん!」
名前を呼ばれた真島はゆっくりと顔を上げ、雅美を見上げる。
その表情には笑顔を作る余裕もなく無表情のままで、
寒さで凍え今にでも生き絶えそうな凍死寸前の顔をしていた。
「……ここでずっと待ってたんですか?」
「6時半から待っててん……、寒すぎやで今日の夜は」
ということはこの冷たい北風の中、6時間もこの場所で待っていたという事になる。
その事実に絶句した雅美に浮かぶ言葉が見つからない。
呆れてものが言えないのか。
それとも執念というのか、全く検討がつかない。
だが、漸く出会えた以上外にいる意味はない。
「どこかお店に入りましょう、真島さんも早く体温めないと……!」
雅美が辺りを見回しながら言うと、真島が手を貸してくれと呟く。
「あまりにも寒くて足が固まってしもうた」
その言葉に#雅美#が手を差し出すと、真島は雅美の手を掴みそのまま勢いよく引っ張って漸く立ち上がった。
その力に一瞬体が大きくよろめいた雅美。
そして氷のように冷たくなった革手袋の感触が、雅美の胸にぎゅっと強く締め付けていた。