第1章 真島という男
ミレニアムタワーから程近い場所にあるバッカスに、二人はいた。
薄暗い店内には数人の客がいて、ダーツを楽しんでいる客もいる。
「お待たせしました」
マスターからカウンター越しに飲み物が出される。
雅美はホットドリンクを真島はアルコールを頼む。
「体はもう大丈夫ですか?」
「もう大丈夫や。こうみえても丈夫な方なんやで?」
カウンター席に肩を並べて座る雅美に、真島がニッと笑いながら話す。
先ほどの硬直した体もアルコールと店の空調で漸く解されてきたようだ。
「まさか……、あの場所に長い時間いるなんて想像もしませんでした」
雅美が申し訳なさそうに呟く。
そんな横顔を真島はグラスを傾け、一口飲みながらじっと見つめている。
「てっきり冗談なのかと思ってたから……。本当すみません」
「何で謝るんや?」
「だってずっと待たせちゃったから……」
「仕事があったんやから、しゃーないやんか。雅美ちゃんが気にする事やないで」
ハハハと陽気に笑う真島に、雅美の顔にもつい笑みが自然と零れる。
「冗談だと思ても雅美ちゃんはちゃんと来てくれた。俺はそれだけで十分嬉しいわ。そーいう真っ直ぐなところがええねん」
「……」
そう言って真島は笑いながら雅美を見つめると、互いに視線がぶつかった。
真島の熱い視線に頬を赤くする雅美。
胸の奥が一気に熱くなって、どうしても真島から目線が外せない。
心臓がドクンドクンと大きく高鳴り、
すぐ側にいる相手に鼓動が聞こえてしまいそうだった。
言葉ではなく目で何かを訴えるような真島の眼差し。
それは雅美の心に直接問いかけるような、不思議な感覚だったのだ。
「……頬っぺた赤いで」