第24章 不安定要素
自室のベッドで仰向けになり目を閉じると反復されるのは例の言葉。
————手前は何時まで人形続けてンだよ。
————所詮はただの人形だ。
————手前が一人になった時、手前は如何すンだろうな。
『五月蝿いっ!!!』
手近にあったクッションを壁に投げつける。
力なく床に落ちた其れは文句一つ云わない。
否、云えないのだ。
“物”なのだから。
『私も………“物”?』
人の顔色を伺い、必要に応じてにこやかに愛想笑い。
全ては私を案じてくれる森さんの期待に応える為。
年齢にそぐわない難問を解くのも全く興味の無いバイオリンやピアノを優雅に弾いてみせるのも私にとっては作業。
もしかすると呼吸すら作業なのかもしれない。
『“人形”は呼吸しないもんね。』
ははっ、と嘲笑った私は深く眠りについた。
————次の日の放課後。
彼女に云われた通り教室に残る。
昨日の今日だ、何も響かない予感はしていたが其れは外れたらしい。
『残ってもらってごめんね。』
中「いや……。手前こそ塾とかあンじゃねェのか?」
『今日はピアノだったかな。サボるのなんて人生で初めてだよ。』
ふふっ、と笑った彼女の笑みはとても綺麗なものだった。
矢張り何処かで無理をしていたのだ。
例えるならば操り人形の糸が取れた、とでも云うべきだろう。
『私はこれから如何したらいいと思う?』
中「なンかやりたい事ねェのか。」
『それが困ったことに無いの。』
中「塾と習い事は続けるのか?」
『……辞める。』
中「勉強は?」
『最低限はする。』
中「親と話し合いは?」
目を見開いた後黙りこくってしまった。
肝心なところを見過ごしていたらしく、うんうんと考え込んでいる。
中「話し合いは難しいか?」
『うん…………一寸無理かな。』
中「じゃあ家出るしかねェだろ。」
『…………は?』
苦笑いで話し合えないと答えた彼女に最適な解決策を提案した。
確かに非現実的では或るがこの方法が一番手っ取り早い。
ただ問題なのは協力者が要るという点。
一人暮らしを始めるにしろ必要になのは資金。
そんなお金を中学生が持ち合わせている訳がない。