第24章 不安定要素
『い"った!!!』
国「俺が一度でも“迷惑だ、帰れ”などと貴様に云ったことが或るか?」
『………無い。』
国「俺は嘘は云わん。愛理、お前が此処に居たいと思うまで居ればいい。」
『出て行くって云ったら?』
国「俺は引き止める権利も資格も無い。」
自嘲気味た独歩へ礼を云うと愛理は自室へ向かいすぐに風呂場へ行った。
熱いシャワーでも浴びれば何かが流れてくる気がしたからだ。
二年程前、中学三年生であった愛理は森鷗外から絶縁覚悟で逃げ出した。
医師をしている彼、その中でもエリート中のエリートだった森さんは私を同じ様に育て上げることに拘った。
小学生の時に産みの母も父も失くしてしまった私を快く引き取ってくれた彼への期待へ応えるべくそれはそれは頑張った。
————だが彼の期待は底無しだった。
小学生にしては多い勉強量、更には様々な習い事に明け暮れる毎日。
勿論友達と遊ぶ時間なんてない。
学校の休み時間の交流で充分だ、どうせ大人になれば疎遠をするのだから。
私は一切青春を謳歌することなく中学三年生になった。
進路は勿論森さんの決めた高学歴の高校。
進路票に心を無にしてその高校名を記入している時、一瞬にして紙が消え去った。
不思議に思い周囲を見れば横に立っていたのは幼馴染の中原中也。
森さんに引き取られた際転校した先にいた小学校の同級生だ。
有限な時間の中で彼と話すことが最も多いと云える。
中「手前は何時まで人形続けてンだよ。」
『人形?』
中「親の云う通りにしか行動しねェ人形って事だ。」
『……其れの何が悪いの?』
素朴な疑問だった。
森さんの期待へ応えられれば彼は幸せそうに微笑んで頭を撫でてくれる。
私もそんな森さんを見ることが嬉しいのだ。
誰も不幸では無いのに何故?
私の云いたいことを察したのか中原君は溜息を吐くと急に机をバンッと叩いた。
中「手前は幸せか?」