第21章 背徳のシナリオ ~前編~
「へ?何、それ?」
「聞いていませんか?虎徹さんから」
「うん」
「じゃあ言っていいのかな……」
僕は悩むフリをする。
「いいよ、いいよ!言ってよ!虎徹君、ほんとに私の話なんてするんだね」
「しますよ。いつも」
本当に……同じことばかり何度も……ね。
「貴女が、笑顔になった時に出来る笑いジワを、見たかったそうですよ。
亡くなった奥さまにも」
「え?」
「ほら虎徹さんは若い頃、奥さまを病気で亡くしているでしょう?」
「あ~……詳しくは……聞いてない……」
「そうなんですね。まぁ、亡くなった奥さまの話なんてしないですよね、恋人に」
「恋人……まぁ……そうだね……」
「貴女の目元の笑いジワを見た時に、泣きませんでしたか?虎徹さん」
「あー……あの、突然泣いたのって……そっか、亡くなった奥さんの事、考えてたんだ……何で泣いたのか気になってたんだよねー!スッキリしたわー!ありがとう!」
あ、ありがとう…………か…………
「貴女のその明るい性格に、惹かれたようですね。虎徹さんは」
「ま、それしか取り柄ないし。あ、あと食欲も!」
そう言ってケラケラと大きな声で笑う
おばさん
それが僕の印象だ。
だけど……
虎徹さんには、魅力的に映るんだ。
この人が愛おしいんだ。
この人が…………
「あ、ケータイ……鳴って……」
虎徹さんからの連絡を待っていたのか、さんはずっとテーブルの上にスマートフォンを置いていた。
「虎徹君からだ!出るね?」
「どうぞ」
僕はもちろん、ニッコリと微笑む。
……連絡を最初に入れる相手、僕じゃないんですね。
だけど内容はもう解っている。
「お疲れ様、今どこ?え?……そうなの……うん……」
明らかにさんの表情が暗くなっていく。
「BBJ、虎徹君……電話替わって、って」